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一少女の今に教えられて

◎心の大きさ、優しさ

 近くのご門徒さんのお子さんで小学2年生の女の子が、二学期から大学病院に入院することになりました。それまでお寺の「土曜寺子屋」に来ていたのですが、小児急性リンパ性白血病と診断されての入院となったのです。三年生の夏休みに一年間の入院生活を振り返って作文を書きました。私はそれに目を通したとき、とても深い感動を身に覚えたことを思い出します。

 まずタイトルに目を奪われ、中身を見ずとも何が書かれているのだろうかと想像を掻き立てられたことでした。そのタイトルは『病気が私にくれたもの』でありました。

 家族と離れて一人で病院にいるのがとてもつらかったり、治療のつらさに沢山泣いたそうです。そのような状況の中で、病院の先生や看護師の方々が寂しくならないように気遣ってくれたとのことです。主治医の先生からは、「この病気は乗り越えられる人がなる病気だから大丈夫」と励まされながら、九か月間頑張ったと書かれています。そして投薬の影響で口内炎となり、食べたくても食べられないことがあったり、痛くて眠れないこともあったそうです。

 この病気にかかる前、毎朝結んでもらっていた髪の毛がどんどん抜けていく様子を両親はびっくりしていました。しかし女の子は、「どうせみんな抜けてしまうとよ。私は大丈夫よ」と言ったそうです。ご両親の心配に対して、逆に「心配しなくていいよ」と、心配する人の全体を包み込んでしまうほどの心の優しさに、ただただ頭が下がります。

◎みんなに支えられて生きている喜び


 また、入院中に妹が生まれたそうです。「入院していなかったら妹を抱っこできていたのに」と妹に対する優しい気持ちを述べています。日常生活のすべてが、入院を契機に特別なことになったと言っています。「この病気になったことを良かったとは思わないけど、沢山の人に気を遣ってもらい、沢山の人に支えられてここまで頑張ることが出来ました」と、そのことを「しあわせだなあ」と素直に表現しています。

 さらに、「悲しみ苦しみの中で流した涙は、自分が流した涙より、お父さんとお母さんの流した涙のほうが多かったと思います。」と、いつも相手の心に寄り添って対応する姿に感動させられます。ご両親がよく、「あなたがニコニコしてくれていたら、それで幸せ」と言っていたことに対して、「私が早く元気になって幸せにしてあげたいです」と続き、「今は退院して家族と過ごせて幸せです。それを病気が私に教えてくれました。」と結んでいます。

◎逆境を乗り越えて


 少女は四年生になりました。今も病院に通い治療を続けていますが、薬の副作用でとてもイライラすることがあり、友達の前では必死に耐えているそうです。その分家族に当たってしまい、そんな自分がイヤになることがあると言います。学校で友達と遊びたくても体力が続かず、今は一人でいることが多くなったそうです。

 そのような時、日本臨床腫瘍学会学術集会で依頼を受けて、この作文を発表しました。その年の作文コンクールで優秀賞に輝きました。

 発表の時、会場の大きさを見て不安になったそうです。でも自分の前に悪性リンパ腫の人、乳がんの人が発表して、みんなつらい治療を頑張っているんだなと勇気づけられ、さらに発表が終わり、沢山の人たちが涙を流しながら、「ありがとう」「勇気づけられました」と言ってくれたそうです。

 今は五年生になりましたが、四年生の終わりに大切な祖父がお浄土に還られました。葬儀の後の終わりの言葉があります。「おじいちゃんって呼んだら目を覚ましそうだから、聞いてくれるとうれしいな」から始まり、「私が白血病になって付き添ってくれるお父さんの分まで仕事をしないといけなくなってごめんね。いつも応援してくれてありがとう」と感謝の言葉が続いています。七日七日のお逮夜のお勤めには、正信偈の経本を妹と一緒にみんなに配り共に唱和して、あとの法話をキラキラした眼差しで食い入るように聞いている姿に、私自身が救われていく喜びを感じているところです。

法照寺 秦 秀道